東京高等裁判所 昭和25年(う)4547号 判決
原判決は所論被告人の検察官に対する供述調書の外に原審証人平山明熙の供述その他を綜合して原判示事実を認定したもので被告人の供述記載のみを証拠としたものではない。而して右証人平山明熙の証言中に現われている本件犯行発覚直後の被告人の行動言辞が原判示事実を認定する有力な資料であることは明らかであるから原判決には違法の点はない。又所論は被告人が麻薬中毒者であることを前提とし注射薬の有効時間経過後は心神耗弱の状態にあつた被告人の供述には任意性がないと主張するのであつて、被告人は原審第三回公判調書中「自分はモルヒネ中毒にかかり検察官に調べられた時薬が切れていたのであり且警察でも自白したので警察の通りやつたと述べた」旨の記載があり原判決に証拠として引用の昭和二十五年七月九日付被告人の供述調書中にも「自分は本年二月よりモルヒネ中毒である」旨の記載がある。しかし法廷で述べたところが前に検察官に述べたと違うからといつて前の供述が間違いであり任意性がないと断じ得ないし他面被告人が常時どの程度の麻薬を使用したか或は被告人が勾留後どの程度の禁断症状を現わしたか等について何等の証明なき本件に於て前記供述記載のみによつて被告人がモルヒネ中毒患者なりと認定もできないわけである。仮に所論のようにモルヒネ中毒患者であつたとして被告人が逮捕せられた直後の昭和二十五年七月九日とその後九日経過した同月十八日の両度に被告人は検察官にそれぞれ本件犯行を自白したのであつて、殊にその後者の分は相当詳細に自已の犯行を供述しているのみならずこれを前記証人平山明熙の証言と対照検討するとき被告人が任意供述したものであると認められ右供述当時所論の如き心神耗弱の状態にあつたが故に任意に供述したものでないとの疑を容れる余地もない。従つて原審が敍上各証拠を綜合して原判示事実を認定したのは事実の誤認でもなく法律違背の点ありとは認められず所論はすべてその理由がない。